「ビル・ゲイツの面接試験」ウィリアムパウンドストーン

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?

マイクロソフトの入社試験の問題をテーマにした本。


世界最高企業のひとつであるマイクロソフトは、かねてからビルゲイツが「ブリリアントな人」しか採用しないと公言しています。
そのマイクロソフトが面接で出す問題が、「富士山を動かすにはどうしたらいいでしょう?」というものだというのです。



要するに、論理的思考力などに裏付けられる「地頭の良さ」を計るということ。
もちろん、富士山を動かす方法の正解を20分で出せるわけはなく、面接官は正解を求めているわけではない。ただ、それ答えようとするアプローチに注目するというものです。


文中にはたくさんの例題が収録されており、たとえば、
「8枚のコインのうち、一枚だけが重い。2回だけ秤を使って、どれかを当てよ」
「5本のビンに錠剤が入ってる。1ビンの錠剤だけ古びて重くなってる。でも外観は全く同じ。1回だけ重量計を使っていい。どうやって当てるか」
といった論理系から、
ビルゲイツの風呂を設計せよ」
といった商品企画アプローチまで。


ほとんどが奇抜な問いであり、ほんとにそれで頭の良さが計れるのか怪しいものとも映る。


ただ、それにはマイクロソフトという会社の事業の特性を考えると、納得できる面もあります。
すなわち、いわずとしれた世界最高のソフトウェアメーカーで成果を挙げるには、まさにその思考方法こそが一番の価値の源泉なのかもしれないなと思うのです。
ソフトウェアを作るってのは、ひとつの問題に対して、いかにして最大効率のソリューションを与えるかということですので。
ヒラメキの天才君が活躍しやすい場ではあります。


まあ、中にはホントにパズルじゃん、という例題もあり、全部が全部、優れた問題とは思えませんが、それも、本当にマイクロソフトで出たのかは不明ですが、でも、こういう切り口の本は珍しいし、例題も豊富だし、マイクロソフトのリアリティもあいまって楽しめる本です。

答えのない問いを、考えるのは、案外気持ちがいい。
一気に読まず、一問ずつ、丁寧に考えると楽しめます(一部期待はずれの解答もあるので注意)。


★★★★☆


映画に例えるなら、知的なゲーム性の高い映画ということになるでしょうね。
マイクロソフトカッティングエッジなイメージを加味すれば、ブラッド・ピットのシュールでスタイリッシュなバイオレンス「ファイトクラブ」とか。

「イノベーションのジレンマ」クレイトン・クリステンセン

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)


今日現在、21世紀リリース最高の一冊。
「なぜ、最高に優秀な大企業が、小さな企業に負けるのか」を研究した本。
主流市場でリーダーとなるための経営慣行そのものが、破壊的技術によって得られる機会を失う原因になってしまうというジレンマ、つまり優れた企業は優れているから失敗するというジレンマです。
序盤からその筆致は確実なステップでグイグイ展開され、そのスピード感に興奮を覚えます。


私の20代後半にずっと漂っていた疑問は、「なぜベンチャー企業が覇権を取ることがあるのだろうか」というものでした。Yahoo!、e-bay、楽天mixiなど輝かしいネットベンチャーの周辺には、その周辺には何百倍もの資産のあるとゲームやエレクトロニクス、通信など近い業界がいたはず。それらのネットベンチャーはものすごい発明でのし上がってきたわけでもない。もし発明があったとしても、年間何百億円以上の研究開発費を投じることのできる既存大企業にはいくらでも追い越せる可能性があるはず。しかも大企業は優秀な人材を集めることにも成功している。なのになぜ、大企業はそれらネットベンチャーに負け、時には傘下に収まってしまうのか。


当時、私が出した立てた仮説はこうでした。
①固定費。大企業といえども、小さな市場で、ベンチャーと獲得する収入が同じであれば、そのなかでコスト競争をしなくてはならない。その場合、正社員が多く、給与の高い大企業の方がコスト面で不利になり、サービスの質が落ち、負けていく。特にネットサービスの場合、コストのメインは人件費である。

②社員のマインドの違い。なんとなく新規事業に割り当てられた大企業の社員と、生きるか死ぬかをかけるベンチャーとでは成果は異なる。仕事の成果とは、人数だけではかれるものではない。またベンチャーは新陳代謝が激しく、結果として、その仕事にフィットした人だけが残っていくことになり、効率は最大化する。

③意思決定のスピード。ネットサービスでは多くの場合、先んじることが肝心。そのために、意思決定のスピードは最重要だが、ベンチャーの場合、良くも悪くも経営者のカリスマ的直感で決められることが多い。どの道、一か八かやってみて、だめなら逃げる、それがネットサービスの鉄則である。しかし、大企業はそこそこ優秀な中くらいの層がディスカッションし、その上を説得し、であるため、そもそも粗探しのコンサバな議論になりがちだし、当然スピードは遅くなる。


この本は、これに対して、真正面からシュートを蹴りこんでくれるものです。
この本に書いてあることは一言でいうと、「持続的に成長しようと計画を立て顧客の意見に耳を傾ける優秀な企業は、自らの体質のために、その下からやってくる新興企業にやられる力学がある」というもので、「それは自然の摂理のようなものであり、逆らわず、調和することを目指すべき」というものです。なぜ、そういう力学・運命であるといえるのかを論理的に説明し、対処法としての調和を提案するというものです。


優れた大企業がやられちゃうのは、シンプルな理由です。カンタンに言うと・・・
1.企業は、「今の客」が求めないアイデアを切り捨てる仕組みになっている。別次元の将来の客のための技術に投資できない。

2.大企業は、成長率を維持するために、小さな市場にはかまっていられない。

3.破壊的技術市場は、大企業が得意な分析、綿密な計画ができない。

4.現組織は、現状に合わせてマキシマイズされている。場が変わると、対応できない。

5.技術進化のスピードが、顧客の需要を上回ってしまうことがある。



ただ、“調和する方法”については多少、消去法的な印象になります。
「つよい独立性を持った小さな組織・子会社を持つ。しかもその子会社に親会社を脅かすほどの自主性を与える覚悟を持つ。失敗前提、学習型の進め方をする」


さて、クリステンセン氏は別のインタビューでこのように述べています。
・次にヤバそうなのは、Silicon Graphics、Hewlett-Packard、Sun Microsystemsなど。Dellはまだいける。
・インターネット販売は店舗販売に対する破壊的モデル。LinuxMicrosoftに対する破壊的テクノロジーBlackberryもノートPCに対する破壊的テクノロジーとして成功する可能性がある。
・破壊的イノベーションの原理は国家にもあてはまる。シンガポールは日本の経済停滞に対し、破壊的イノベーターと似た立場にあると思われます。日本が経済大国となった背景には、日本企業が破壊的イノベーターとして貢献したことから。例えば、ソニーは安い小型ラジオを、キヤノンは卓上コピー機を作りました。ローエンドから始まったこれらの企業が今ではハイエンドへと移行し、そして行き詰まっている。シンガポールは、過去の日本と同じ境遇にいます。つまり、ローエンドから始まり、単純な製品の生産拠点として、また安い労動力を武器に海外投資の誘引に成功した。しかし今は、ハイエンド側へと移行しすぎだが。

また、このような発言もしています。
マイクロソフトLinuxの市場崩壊に対し、「マイクロソフトを没落させる」ビジネスを別途立ち上げて対応すればよい、つまりハンドヘルド端末用のLinuxアプリケーションに投資せよ。



まあ、本にもありますが、企業は持続的イノベーションを基本とするものです。常に破壊的イノベーションで成長しようと考える企業は本末転倒ですし、まあ、ありえません。
だから、大切なのは、その二者を意識し、両方にケアしていくということなのでしょう。

印象点:★★★★★

この本を映画でいうなら、痛快なアクション、魅力的なキャラクター、最高のシナリオという映画の王道を現代型で成立させた傑作「ダイ・ハード」のポジションと言っていいんじゃないでしょうか。続編も。